ヤムカ

そろそろ着くぜ。ほら、そこがオレのアトリエだ。

グージィ

なお、イスはミッつしかありませんのでアしからず!

グージィが御者台から叫んだ。
僕たちは馬車の窓から顔を出して、道の先に目を向けた。

場所は、ジャハまであと一時間というあたりだ。
住宅が並ぶ通りで、ひとつだけ門を固く閉じた建物がある。

ヤムカ

長く留守にするときは門を閉じてるんだ。

ルーガル

盗まれるようなものもなさそうだが。

ヤムカ

見た目で判断してんじゃねえよ。まあ金目のものはともかく、『アレ』があるっつっただろ。

入り口のドアを開けると、すぐに広い部屋に出た。人形作りの材料や、作りかけの人形がある。ここは、作業室らしい。

部屋の奥は物置で、そこに「アレ」が並んでいた。

ヤムカ

こいつらがオレの戦闘用人形――

ヤムカ

1号、2号、3号だ!

ベシワク

どうしてこの毒々しいデザインなのか、聞いても?

ヤムカ

強そうだろ?

ヤムカは戦闘用人形を物置から出して、起動方法や命令方法を説明し始めた。コペが熱心に聞くので、楽しそうだ。

コペ

これだけのものを短い呪文で操れるなんて、革命的だよ!

ルーガル

遠隔攻撃が可能なのか。魔物との戦いで助けになりそうだ。

ヤムカ

だろ? リリーシカが魔物を手先にしてんなら、こいつらが役に立つ。ただ、どうやってジャハに持ち込むかだが。

噂によると、ジャハの町は今、壁で囲まれているらしい。

リリーシカが町を占拠したあと、ジャハは魔物だらけになってしまったという。それで、ジャハの外まで害が及ばないよう、政府が防壁を建てたのだ。

ルーガル

ジャハの壁とやらがどんなものか、知らなければ考えようもない。

ベシワク

そうだね。一度見に行こうか。

ベシワク

ここが、ジャハの町か・・・

ヤムカ

うわ、前に来たときとずいぶん違うな。

グージィ

あっちこっちコワれてますねえ~!

馬車で一時間走るうちに、だんだん人通りは少なく、町の景色は暗くなっていった。

やがてジャハにたどり着くと、壁の向こうに見える家々は、魔物の攻撃で破壊されていた。
住人は、無事に避難できたのだろうか。

ベシワク

・・・にしても、壁、低くないか?

コペ

うん、背伸びすれば中が見えるなんて。踏み台があれば越えられちゃうね。

ベシワク

魔物を封じ込めるために、政府が建てたものだよね? これでいいの?

ルーガル

問題ない。政府もそこまでマヌケではないよ。

ルーガルがふわりと飛んだ。壁の上に立ち、内側に手を伸ばす。

ルーガルの手が、突然現れた魔法陣と電撃ではじかれた。

ベシワク

これは・・・!?

ルーガル

結界が張られている。町全体を覆うようにね。壁はその目印に過ぎない。

コペ

ほんとだ、目を凝らすとちょっと見える。これだけ広い範囲を囲ってるなら、きっと軍属魔法師が関わってるね。

ベシワク

軍属魔法師?

コペ

魔法を専門にする軍人だよ。制服がすごくかっこいいんだ。

巡警

おおーい! ちょっとお!

道の向こうから制服姿の役人が走ってきた。

ベシワク

あの制服?

コペ

ううん。この制服はおまわりさん。

巡警

ちょっとちょっと、どちら様!? その結界、触ったらダメだって!

ルーガル

なぜ?

巡警

ジャハの町に魔物が湧いてる話、知らないの? 危険だから入ろうとしないで!

ベシワク

町の中にいた人たちはどうなったんですか?

巡警

無事だよ。気づいたらみんな町の外にいたそうでね・・・集団催眠にでもかかってたのかね?

ベシワク

転移魔法で外に追い出したのか・・・?

巡警

とにかく、一般人は立ち入り禁止! 安全のために軍属魔法師が総出で結界張ってんだから。もう一度結界に触ったら逮捕だからね!

ルーガル

わかった、結界には触らない。・・・触る必要もない。

僕たちは巡警に追い立てられるように馬車に乗り、再びヤムカのアトリエに向かった。

ベシワク

ルーガル。あれ、通れそう?

ルーガル

転移を使えば可能だ。あの壁の薄さなら魔力の消費も、少し休めば回復する程度だろう。

ヤムカ

壁も結界も関係ねえのか。よかったな、脱獄するとき便利だろ。

ルーガル

つかまるような悪事はしたことがない。

ヤムカ

短いつき合いのオレでも二、三個知ってんだよおまえの悪事。

アトリエに到着したときには、日は沈み切っていた。
ドアを開けると、戦闘用人形が暗い作業室で僕たちを出迎えた。

・・・やっぱ毒々しいよ、これ。