グージィが御者台から叫んだ。
僕たちは馬車の窓から顔を出して、道の先に目を向けた。
場所は、ジャハまであと一時間というあたりだ。
住宅が並ぶ通りで、ひとつだけ門を固く閉じた建物がある。
そろそろ着くぜ。ほら、そこがオレのアトリエだ。
なお、イスはミッつしかありませんのでアしからず!
グージィが御者台から叫んだ。
僕たちは馬車の窓から顔を出して、道の先に目を向けた。
場所は、ジャハまであと一時間というあたりだ。
住宅が並ぶ通りで、ひとつだけ門を固く閉じた建物がある。
長く留守にするときは門を閉じてるんだ。
盗まれるようなものもなさそうだが。
見た目で判断してんじゃねえよ。まあ金目のものはともかく、『アレ』があるっつっただろ。
入り口のドアを開けると、すぐに広い部屋に出た。人形作りの材料や、作りかけの人形がある。ここは、作業室らしい。
部屋の奥は物置で、そこに「アレ」が並んでいた。
こいつらがオレの戦闘用人形――
1号、2号、3号だ!
どうしてこの毒々しいデザインなのか、聞いても?
強そうだろ?
ヤムカは戦闘用人形を物置から出して、起動方法や命令方法を説明し始めた。コペが熱心に聞くので、楽しそうだ。
これだけのものを短い呪文で操れるなんて、革命的だよ!
遠隔攻撃が可能なのか。魔物との戦いで助けになりそうだ。
だろ? リリーシカが魔物を手先にしてんなら、こいつらが役に立つ。ただ、どうやってジャハに持ち込むかだが。
噂によると、ジャハの町は今、壁で囲まれているらしい。
リリーシカが町を占拠したあと、ジャハは魔物だらけになってしまったという。それで、ジャハの外まで害が及ばないよう、政府が防壁を建てたのだ。
ジャハの壁とやらがどんなものか、知らなければ考えようもない。
そうだね。一度見に行こうか。
ここが、ジャハの町か・・・
うわ、前に来たときとずいぶん違うな。
あっちこっちコワれてますねえ~!
馬車で一時間走るうちに、だんだん人通りは少なく、町の景色は暗くなっていった。
やがてジャハにたどり着くと、壁の向こうに見える家々は、魔物の攻撃で破壊されていた。
住人は、無事に避難できたのだろうか。
・・・にしても、壁、低くないか?
うん、背伸びすれば中が見えるなんて。踏み台があれば越えられちゃうね。
魔物を封じ込めるために、政府が建てたものだよね? これでいいの?
問題ない。政府もそこまでマヌケではないよ。
ルーガルがふわりと飛んだ。壁の上に立ち、内側に手を伸ばす。
ルーガルの手が、突然現れた魔法陣と電撃ではじかれた。
これは・・・!?
結界が張られている。町全体を覆うようにね。壁はその目印に過ぎない。
ほんとだ、目を凝らすとちょっと見える。これだけ広い範囲を囲ってるなら、きっと軍属魔法師が関わってるね。
軍属魔法師?
魔法を専門にする軍人だよ。制服がすごくかっこいいんだ。
おおーい! ちょっとお!
道の向こうから制服姿の役人が走ってきた。
あの制服?
ううん。この制服はおまわりさん。
ちょっとちょっと、どちら様!? その結界、触ったらダメだって!
なぜ?
ジャハの町に魔物が湧いてる話、知らないの? 危険だから入ろうとしないで!
町の中にいた人たちはどうなったんですか?
無事だよ。気づいたらみんな町の外にいたそうでね・・・集団催眠にでもかかってたのかね?
転移魔法で外に追い出したのか・・・?
とにかく、一般人は立ち入り禁止! 安全のために軍属魔法師が総出で結界張ってんだから。もう一度結界に触ったら逮捕だからね!
わかった、結界には触らない。・・・触る必要もない。
僕たちは巡警に追い立てられるように馬車に乗り、再びヤムカのアトリエに向かった。
ルーガル。あれ、通れそう?
転移を使えば可能だ。あの壁の薄さなら魔力の消費も、少し休めば回復する程度だろう。
壁も結界も関係ねえのか。よかったな、脱獄するとき便利だろ。
つかまるような悪事はしたことがない。
短いつき合いのオレでも二、三個知ってんだよおまえの悪事。
アトリエに到着したときには、日は沈み切っていた。
ドアを開けると、戦闘用人形が暗い作業室で僕たちを出迎えた。
・・・やっぱ毒々しいよ、これ。