ヤムカ

さて、おまえらがここに泊まるにあたり、言わなきゃならねえことがある。ひとつ。

グージィ

ヤネウラにベッドはあるけど、ごシュジンのものなので、ミナさんにはカしません! ユカでネな!

ヤムカ

ふたつ。

グージィ

ついてはこのサギョウシツでザコネか、モノオキでザコネか、エラびなさい!

ヤムカ

以上だ。

ベシワク

言いづらいことを人形に言わせるの、どうかと思うよ。

作業室は、食事も仮眠もすべてこの一室で済ませるようになっていた。部屋の片隅に仮眠用のソファがある。

軽い夕食を取ったあと、コーヒーを飲みながら話しているうちに、ルーガルはソファで寝息を立てていた。
いつの間にかグージィがそのおなかの上に乗っている。

ルーガル

くうくう。

グージィ

くかーくかー。

コペ

んんん~。

ヤムカ

コペも無理すんなよ。ソファがよけりゃルーガルを引きずり落とせ。

コペ

まだだいじょうぶ・・・

ベシワク

でもコペ、眠そうだよ。

コペ

実は、他の人が起きてる場所で自分が寝るの苦手なんだ。でも物置はちょっと・・・。二人が眠ったら寝ようと思ってたけど、まだしばらく起きてる?

ヤムカ

先に言えよ。屋根裏使うか? 考えてみりゃ、オレはここで仮眠するの慣れてるしな。

コペ

え、いいの? ありがとう!

コペは毛布を持って、タカタカと階段を上がっていった。

ベシワク

ヤムカも、人のこと言えないくらい疲れた顔してるけど。

ヤムカ

一日馬車に揺られてたからな。むしろおまえはなんでそんな元気なんだよ。まあいい、相談したいことがあったんだ。

ベシワク

何?

ヤムカ

ルーガルのあの作戦、どう思う?

ベシワク

それは・・・

ルーガルが死んだフリをして、リリーシカの動揺を誘い、そのスキをついて殺す――。
馬車の中でも、何度もルーガルを説得したけど、考えを変えることはできなかった。

ヤムカ

オレはあの作戦、遠回しな自殺じゃねえかと思ってるんだ。

ベシワク

そんな!

ヤムカ

だってよ、自分を殺そうとしてる奴が、自分を殺したらびっくりしてスキを見せるだろうなんて、どんな馬鹿なら思いつく? 論理学が泣くぞ。

ベシワク

僕もそうは思ったけど、でも、どうしてそれで自殺なんて?

ヤムカ

リリーシカの目当てがルーガルの魔結晶なら、リリーシカはルーガルを殺したらすぐさま体をぶち破って魔結晶を取り出すだろ。ルーガルは、それが狙いなんじゃねえか?

ベシワク

わざと殺されようとしてるっていうのか?

ヤムカ

妹が半魔物になってジャハを占拠してるのは、元をたどればルーガルが原因なんだろ。あいつに罪悪感なんてあるのか疑問だが、ないと言い切れるほどあいつを知らねえしな。

ベシワク

そんな考えなら、止めなくちゃ!

ヤムカ

焦るなよ、まだ勘違いかもしれねえんだから。明日ジャハに行く前、おまえからそれとなく聞きだせねえか? あいつが何考えてるか。

ベシワク

僕が? 僕にできるかな。

ヤムカ

まあ、好きな女に深い話するのが無理だってんなら押しつけねえけどさ。

ベシワク

げほっげほっ!

僕は慌てて咳き込んだ。

ベシワク

いいいつ気づいたの!? 僕ってもしかして、隠すのが下手?

ヤムカ

マジか、八割冗談だったんだが。

ベシワク

罠だった!

その後も二人は、夜更けまであれこれ話していて・・・いつの間に眠ってしまったんだろう?
テーブルに突っ伏していたところを、コペに起こされたのは、日が昇って間もない頃だった。

コペ

二人とも、起きて! ルーガルがいない!

僕は飛び起きた。
ソファには、グージィ人形だけが寝ていた。